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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「旦那だって、吹きたいんでしょう。こんなに、大勢から、やんやと持てては」

「ばかをいえ。おまえたちに聞かせるほどなら、野中でただ独り吹いていたほうが、よほどよく吹ける」

「そら、始まったぞ。旦那の勿体ぶりが」

「でも。ほんとだ」

「そんなに、わしらの耳はふし穴ですかね」

「まあ……な」

「ひどい、ひどい」

親方の権三も、職人たちも、わざと息まいて見せる。竹の歌口をなめながら、介三郎は肩をゆすぶった。

すると、隅にいた勘太が、

「こちらの耳がふし穴でも、吹き人がほんとうに心を入れてふけば、通じるはずでしょう」

と、いった。

介三郎は、ぎょっとしたように振向いて、

「もや助か。生意気なことをいうなあ。どこで覚えた、そんな文句を」

「あそこに書いてあります」

「どこに」

「床の間に」

見ると、なるほど、二行の双幅に、こう書いてある。ひとつには、

岩松無心風来ッテ吟ズ

もうひとつの幅には、

水元声無シ石ニ触レテ鳴ル

「もや助。おまえにはこれが読めるのか」

「……どうにか」

「えらいな」

「でも、これくらいは、わしの国では、駕かきでも、船頭でもみな読みます」

「ふム……どこだ、故郷は」

「えっ」