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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
介三郎はついに大きな声を出してどなりつけた。
「ばかっ」
そして、わざと、不きげん極まる顔つきして、さッさと出かけてしまった。
湊川の仕事場へ来てみると、まだ露ッぽい草のなかに、石権も為も、そのほかの職人も、みな腕ぐみして、茫然と突っ立っている。
「どうかいたしたのか」
様子がおかしいので、介三郎はすぐたずねた。あたりを見ると、小屋のなかに仕舞っておいた道具箱の道具が所きらわず抛り出してあるし、小屋の中も、塚の上も、踏みにじって、何者かが乱暴狼藉を働いたらしい跡がある。
「どうもこうも、ありやしませんや。ごらんなさい、小屋の裏を」
石権が指さすので、そこをのぞいてみると、小屋の背なかが半焦げになっている。放け火をしたあとが明らかに分る。
「ゆうべの、寒鴉にちげえねえ。勘太をやッつけたのも、小屋をこんなにしやがったのも、あの鼻の先のひん曲った色の黒い素浪人だ。ねえ旦那、いまも親方に頼んでいるところだが、後生ですからきょうだけ仕事を休ませておくんなさい。足を摺粉木にしても、野郎をつかまえ出して、この仕返しをしてくれなくっちゃならねえ」
為吉は息まいていった。