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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
すると、その中へ、抛り出すように、荷担の水桶をおいて、肩の天秤をはずすやいな、両手をひろげて、一同をさえぎった者がある。
「待ってくれっ。みなさん、待っておくんなさい」
「あ、勘太じゃあねえか」
「へい、勘太です」
「ばか野郎、なんで止めるんだ。いわばてめえの復讐のようなものだ。その天秤を持って、おれたちのあとについて来い」
「いけません、いけません。仕事と喧嘩と、どっちが大事か考えておくんなさい。後生ですから、もうひとつ虫を抑えて」
と、勘太はまた、石権のまえへ来て、
「親方親方。あなたもまあ、ここんところは……」
と、口を極めて、宥めるのだった。
「お腹のたつのはもっともですが、佐々の旦那にしろ、何もあんな虫ケラどもが恐ろしくて、あいつらの難題をご承知なすったわけでもございますまい。――わしなんざ、現にあの中の浪人のひとりに、闇討ちをくらって、そのときの刀痕は、まだ朝夕の寒さにはうずいてなりません。でも、堪忍というのはここだ、大義と小義というのはこんな事にもいえるんだと、そう……いやそのたびに、楠木正成公のご一族がお忍びなすった無念さなどを思い合せましてね……へへへ、みんな佐々の旦那からの聞きかじりですが、何につけても、楠公のことを考えるんでさ。