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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
眼も鼻も満足にそろっている顔をたしかに示そうという気らしい。
「見損なっちゃあいけねえぜ、おい。此店のまんじゅうみてえに、白ぶくれに膨れていやがって。那珂川原の勘太郎を知らねえのか、てめえは」
「知っていますよ、だからなおさらおまえに菓子は売れない。しかもわしの家で製る上菓子などは、おまえの口にするものじゃない」
「な、な、なんだと。……白まんじゅうめ、もう一ぺんいってみな」
「金はあるぞ、上菓子をくれ。――それが乞食のおまえさんのいえることばか。菓子などというものは、三食のほかのものだ。三度のご飯をたべる人なみ以上にも働いているおひとに一番たべていただきたいと思っている。菓子舗でも働きがいは欲しいからね」
「なま意気をいうな。商人なら金にさえなれば文句はあるまい。おれも意地だ、何倍にでも買ってやるからこの店で一番の上菓子をつつめ」
「千人の商人のうちには、ひとりぐらいはそんなのもあるだろうが、人間の本性は、そんな呆っ気ないものじゃない。おまえにもその性根はあるだろう。人なみに上菓子が喰べたければ、人なみに働くがいい。人の作った米をむだにたべて、そのお百姓でも口にしない上菓子を喰おうなんて、虫がよ過ぎる、世のなかを小馬鹿にしすぎる。