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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
「お年はたしか、二十歳か、もうお一つぐらいで――」
と、いうことから、
「お名は、蕗さまと仰っしゃいます。もうご婚期でございますが、嫁いでは、母御さまがさびしかろうと、ご孝養なすっていらっしゃるようで」
などと立ち入って語り、その弾みでつい、老公の問いもせぬ世間ばなしにまで渡ってしまった。
「なんでも、ひと様の申しますには、あのおきりょうだし、また女子のたしなみはもとより、薙刀小太刀まで修めているという才媛だから、縁談などは数々あっていいわけだが、それをああしているには、ご孝養のためばかりでなく、ほかに事情があるからだと――こういう人もございまする」
「あろうな。……あってよいわけじゃろ。むなしく佳人に孤愁を抱かせておくはずもない。家中の若いものどもがな」
老公も気散じに相づちを打つ。――が、主の口吻のうらには、どことなく義憤めいたものがあった。
「それなら分っておりますが、事情というのは、そんな浮いたはなしではございません。どうやら、心にもなく、さるお方の義理にひかれて、江戸へ行くことになるだろうとかいうおうわさで」
「嫁にか」
「さ。それがどうも、そうでもないらしいので」