轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

ふすまを隔てて、吉保は、白絹の小蒲団に枕をのせ、暢々と寝ころんでいた。そのからだに手をかけている老人は、鍼按摩の大家で杉山流とみずから称えている杉山検校だった。

検校はもう七十近いので、耳は遠く眼はもとより盲いているので、近ごろは何もわからないと、自分の耄碌をよく口癖に喞っているが、

(恍けることも名人)

という世評があるので、吉保は、そのままを信じてもいなかった。だが常々、かれには十分な恩恵をほどこしてある。諸家の内事を訊ねたり、何かの流説を行わせたりするには、恰好な老人であった。

「検校」

「はい」

「凝っておろうが」

「はい」

「そのへんを、ちと強く」

「ここで……」

「むむ。待たせたの、こよいは」

「困りました。他家へまわるお約束がありましたので」

「他家とは、どこか」

「ご老中の……」

と、いいかけて、検校はふと、見えない眼を、ななめに天井へ上げた。ふすま越しに、紋太夫の声がしたからであろう。

六

あり得ないことが世の中にはままある。柳沢家の奥ふかくに、水戸で行方知れずになった佳人がいるなど、ふしぎというほかはないが、たしかにいま、ここの灯影を横にして、泣きもせず笑みもせず、唖のように坐っているのは、雪乃のむすめ、西山荘の帰り途、駕籠ぐるみ、母と共にすがたをかくした――あのお蕗にちがいない。