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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
三
何よりの懸念は、彼は、いわば敵地ともいうべき柳沢家へ、検校の供をしては、たえず出入りしている点だった。もちろんそれは、林助から進んで、二人の誓っている目的のためには――と、危険も覚悟の上でかかっていることではあったが、――その林助の身に、もしもの事でもあると仮定すれば、又四郎としても当然、坐視していられない立場にあった。いや、情としても忍び得ない仲であった。
「……おっ母さん。うちのおっ母さんは、来ておりましょうか」
外で、女の声がした。
三
お次と又四郎とは、その母親以上、よく知り合っていた。
江戸に来てから、転々、住居も定らないでいる頃、お次が使いの帰途、武家の次男坊の群に捕まって、困りぬいていたところを、又四郎が上手に裁いてやった事などがある。
お次の親の魚松は、たださえ親切者の聞えがある程だったから、
(むすめの大恩人)
として、かれを遇すること、一通りでなかった。
かれが、何とはなく、世間の目を忍ぶらしい身の上にある事を知っても、かれを疑わないばかりか、ここの裏店も、夫婦して借りうけ、朝夕の洗いもの、酒屋の借金にいたるまで、
(又さんは困り者だよ)