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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

天をつらぬいている銀河も映らない。足もとの河原草もさえぎらない。

ただあるのは、朋友江橋林助の面影だった。

自分さえ誘わなければ、かれはなお西山に仕えていたろうに。

この江戸へ来て落命することはなかったろうに。

罪をすべて、自分に帰して、痛恨するのだった。自分のなさんとする目的も、かれの向って行った目的も、決して、自我のものではない。――そう分りきっていながらもつい小さく責められるのだった。

「……又四郎さん。こんな晩に死んで行ったひとが皆、あんなお星さまになっているんじゃないでしょうか」

いつかしら、かの女はかれの横顔を、遠くから見つめていた。

死――という呟きが、ふと、かの女の耳に聞えて行ったからであろう。

「? ……」

又四郎は、怪訝な顔して、かの女のほうを振向いた。

六

「お次さんか。……まだいたのか、そんな所に」

「だって、あなたが、帰れともいわないのに」

「来いとも、いわなかった」

「又四郎さんは、おひとが悪い。だまって、家を出ておしまいになって、私ひとりが、ひと様のうちに、残っていられやしないじゃありませんか」

「は、は、は」

又四郎は、起ち上がった。