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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

春雷

一

「これは、畑で出来たことしのお初物でございまする。どうぞ、老公さまにさしあげて下さいませ」

と、厨へ置いてゆくのもあるし、

「きょうは、お蔭さまで、うちの馬が仔を産みましたで、少しばかり草餅を製りました。お口にあいませぬが、お慰みにもと、少しばかり持って参りましたで」

と、取次ぎを仰ぐ者もある。

初ものや四季のめずらしい物。祭や盆や正月の行事など、何かにつけて、百姓たちは、神棚や仏壇へ上げるのと共に、西山荘へも持って来て、取次ぎの者からたった一言でも、

「およろこびであったぞ」

とか、また、

「珍しいと仰せられていた」

とか聞くのを、無上の楽しみとも歓びともしている風であったが、この四、五日は特に、かれらのうちでも日頃ここへ見えない女子供や老人までが、訪れて、

「――ありがとうござりました。おかげ様でこの通り達者になりました。きっと精出して働きます」

と、ある者は、老公のいる住居のほうへ向って、門前に額ずいたまま立ち帰る者もあった。

一把の野菜、一苞の山芋でも、家臣は老公の前に披露した。

老公もその献物にたいして、かならず心もち頭を下げ、

「ありがとう」

の意を示すのが常であった。