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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
また、こんな事もある。
若ざむらい四、五人して、武芸の猛稽古をやった後、雑談にも倦み、ついみんなで昼寝してしまった。眼が覚めると、一同顔色を失った。みな大刀を盗まれてしまったのである。
「不覚不覚。何のための武芸の鍛練か」
「武士のたましいを!」
「自分らの士道は廃った」
悲涙をたたえ、愁然と藩へ訴え出た。――願わくば死を賜わらんことを、一同、自決を覚悟してである。
すると、老公は、これに厳戒を下すかと思いのほか、切腹などには及ばんと沙汰した。老公のいう理由はこうであった。
「熟睡中で知らなかったものは仕方がない。ただこの後は、夢寐の間といえども、士道を忘れぬよう、一そう猛稽古をせよ」
五
人間の性を、寛く観て、その瑕瑾をとがめず、たいがいな事は「ゆるす」ということも、老公の上に見られる最も著しい性格のひとつであった。
時には、
「ご寛大にすぎる」
という非難すらある程である。
極言する者は、
「それだから、藤井紋太夫のごときが、憚らず増長するのだ」
と、までいった。
けれど老公というひとは、国を愛するがように、個々の人間をも、どうしても憎みきれない天性らしい。