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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
手の尺八を見るまでもなく虚無僧であった。
介三郎も青年の修行時代、かつては長く虚無僧寺に籍を置いていたこともある。佐々十竹という別号は、そのときからのものである。かれはすぐ自分の弱冠の頃を思いうかべていた。
「おお」
かれが足を早めると、
「おうっ」
彼方の影も、駈け寄って来た。
「佐々どのか!」
と、まずいう。
なつかしさに溢れている声であった。
介三郎はいきなり手をのばして鼠色の手甲をかけた相手の手をにぎって、
「悦之進か。どうした?」
と、笠のうちを覗いた。
渡辺悦之進の眼には涙があった。――お蕗母娘が行方知れずとなった汁講の夜、老公のさしずなく、母娘のすがたを翌日まで探し歩いたという科で、老公の勘気をこうむり、悄然、西山荘を去った悦之進だった。
「はなしたい事があって、実は、江戸表から急いで来た。どこぞ、人目にかからぬところへでも」
「なに。貴様も江戸から?」
ふたりは、西山荘の門をうしろに、どこへともなく歩き出した。
九
道から離れた梅林の中。古い木の切株も腰かけるに手頃である。渡辺悦之進は被り物を脱った。
「佐々氏、お久しゅうござった」
「変ったお身なりで……以来どうしておられたか」