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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
九
「ひたすらご勘気のゆるされる日を待つのみでした。その間に、藤井紋太夫一味のしていることも、およそ調べあげました」
「いうてはいいか悪いか知らぬが、お身とは親もゆるしているとか聞く蕗どのも、きのうにわかに西山荘をたずねて来ておるが、ご承知か」
「存じておる」
と、やや顔をあからめて、
「両女が江戸からこれへ参るまで、何事もなかれと、実は、見えかくれに守って来ました。……そしてすぐ自分は、ご城下に立ち入り、江戸の藤井と呼応して、怪しからぬ企みをなしている藩中の賊臣二、三の行動をたしかめていたわけです」
「ではお身も……人見又四郎と共に?」
「いえいえ、又四郎とは会いません。人見の犠牲的な挺身も悲壮ではありますが、拙者はあくまで、老公のご意志を尊重してまいりたいのです。すなわち老公の思し召としては、どこまでも覇力を用いず血で血を洗うようなことは避け得られる限り避けねばならぬと――あのご老躯に、あの豪毅なご気質をもじっと抑えて、あらゆるものに耐えておいで遊ばすものと恐察しておりますれば……同じ憂いと同じ目的は抱いても、人見と行動をともにすることは、拙者の節義がゆるしません」