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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
何といっても老躯である。介三郎と格外は、左右から身を扶けた。けれど、あぶみへちょっと足が掛かると、さすがに鍛練されたからだはまだ残っている。あざやかに鞍上にまたがり、すぐ馬首を立てて春風に道を求めている。
山荘の方へ駈けて行った介三郎は、垣の陰に並んで、よそながら老公を見送ろうとしている留守の衆へ、早口に、老公の伝言をいいのこして、すぐ西の方へ駈け出した。
余りにうららかな日であった。
その細道をいま、旋風のような馬けむりが、わき目もふらず駈けて行った。もちろんそんな方向は耕す人のほか往来する道ではなかった。その駈ける砂塵の中に、留守の衆は、蹄をあげてゆく悍馬と、その上にある老公のすがたとを、もう遠くに去ってから初めて見出している。
そのあとから、ひとりの虚無僧が、おくれじと、従いて行った。虚無僧の天蓋が畑へ素ッ飛んだが、虚無僧は、拾っているまもなく、馬のあとにつづいて行った。
距離にして、小一町ほども後から、またひとり追いかけてゆく者がある。いうまでもなく、佐々介三郎であった。
畑の向うは、傾斜になっている。そこを降りると村がある。馬上のひと、つづいて行く鼠色の衣服の影――たちまち畑の果てに没して行った。