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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

二十三

自分を人間にしてくれたものは、このまんじゅうであると、平常、暇があれば、あの葛屋という菓子舗へ行き、薪を割り、箒を持ち、水汲みの手伝いなどまでしておるそうですから、それをご隠居さまがお好きなことなど、菓子舗の亭主から聞いていたものでございましょう」

二十三

終始、老公は感動のうちに聞いていた。その勘太は、まんじゅうをこれへ届けると、すぐ立ち帰ったのか、とある老公の訊ねに、

「いえ、まだお台所の外におりましょう」

と、介三郎は答えた。

「こよいは、大ぜい様のお集まり、何かのご用もありましょう、ぜひ手伝わしてくれいと申し、お台所の外に佇んでおりましたが」

聞くと老公はすぐ、

「呼べ。これへ呼べ」

と、かさねていった。

鹿野文八が出て行った。まもなく庭面のほうに恟々した人影が立った。勘太は、貴人に対する礼を知らない。文八に教えられて、いわれるままに地へ坐った。

老公は自身、縁がわまで出て、縁柱へ背を倚せて坐った。そして、杯をさしまねき、

「勘太にも、一献与えよ」

と、いった。

人々は、かれの光栄を、かれの身になって歓び合った。ところが勘太は、強って、お杯を辞退した。