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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

六

――しかも急速にその実現をはかり、猛烈な暗躍を行っている形跡があるのだ。――それにたいして、いったい、われわれご隠居附の閑役に置かれている微臣が、何で対抗する力があるか。なにを頼んで、お家の危機を支えられようか」

六

もちろん又四郎には良策はなかった。といって彼は、自分の考えに、毛頭、訂正の必要をも感じていない。

もうだめだ! とか。

いまが最後だ! とか。

こういうことばにも、又四郎は近来、そうすぐ悲痛に打たれなくなっていた。なぜならば、かれはかつて空井戸の底で、毎日毎日、それを呻いていたものだった。そしてそれが決して、最後でもなく、だめでもなく、天佑にせよ、何にせよ、こうしてその後も生きているからである。

最後だとか、だめだとか、そんな絶対的な声を、同じ者の口からも、世間のあいだにも、たびたび耳にする事実に見ても、それが真実のだめや最後でないことが分る。

真実のだめ、ほんとうの最後、そんなものは、意識の間に迎えられるものではない。

いや極言すれば、この世の悠久を信じる人間には、最後もだめもないはずである。すくなくも老公を中心として、生涯を国史の編修に捧げた者の心のそこには、それがなくてどうしよう。