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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
そのせいか、三右衛門は、案内に立ちながらも、その二少年ばかり見ていた。少年たちの母は、かれの世辞を笑って、
「どういたしまして、可愛いさかりなどは、とうのむかしでござりまする。ふたりとも、きょうばかりは、夜前、父上から懇々いわれましたので、至極、とりすましておりますが、もう仕方のない悪戯やら、憎ていばかり申して母を困らせておりまする」
「ご老母は、おいくつか」
「六十になりまする」
「紋太夫どのの……?」
「いえ、わたしの」
「ご家老には、こう打揃ってご家庭でもめぐまれておられますな」
「いえいえ、年じゅう忙しい身なので、わたくし達と、夕餉をともにすることも、家に落着いていることもご病気でもないときのほかには……」
よく語る夫人である。それに今日は気も浮々しているらしい。なお何かいいかけたが、老母がそれとなく袂をひいたので、ようやく口をつぐんだ。
かの女の口が結ばれたとき、かの女は、思いがけない方へ自分たちが来ていることに気づいた。
奥庭だろうか。木立のなかに、五輪の高い石の塔が見えるほか、ここらにはきょうの客も見えないし、家臣の影さえ見当らない。
「……おや?」