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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

又四郎が、はっとしたのは、その姿に打たれたからだった。そして、ややしばし凝視の後、われを忘れて、

「わかった!」

と、ほかの人々へ向い、刀でそれを指したわけだった。

かれの声を耳にするやいな、

「何。わかったと?」

佐々も江橋も、また剣持も、わらわらと、又四郎のいる所に寄って来た。

そして、いとど忙しく、

「どこに?」

「連判があったのか」

と、又四郎の手を見、その顔を見、口々にたずねた。

又四郎は、血刀をもって、炉のほうを指したまま、

「あれを見たまえ」

と、いった。

すでに一念のほか何もなくなっている瀕死の用人は、なおやっていた。なお自在竹へ向って重い刀をうごかそうとしていた。

「……?」

「なんだろう」

「何をやろうとしているのか」

たれにも解せなかった。

又四郎は、炉のそばへ進んで行って、一颯いきなり、自在竹の上部を斬り落した。――その戞然たる音を聞くと、用人は、自分がそれを仕果したように、とたんにがくと首を垂れて、すぐ息をひいてしまった。

竹の斬り口は、炉の中に落ちこんでいた。炉には、勢いのいい火があった。又四郎はすばやく手をのばして、あわや焔になろうとする真っ黒な一巻を救いあげた。