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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
――かと思うと、巻は、巻き馴れたひとの手で、颯々と鳴って、もとの短い棒に返っていた。
「よし」
うなずいて、
「……これだにあれば」
と、独りいった。
そして、村右衛門と、阿部七兵衛にむかい、
「選りのけたほか、それらの反古や古手紙は、介三郎のぶんと併せて、散らさぬよう、ひと纏めに、どこぞでじきに焼き捨てい。――小者どもなどに命じては相ならぬ。両所自身、責任をもって、焼けのこりの一紙片たりとも風に失わぬように、きれいに灰にいたしてくれよ」
といった。
ふたりは、頭をそろえて、
「かしこまりました」
と、礼をして、それを機に静かに退出した。
「…………」
その後、老公は、ややひとみを和ませて、遠い能囃子に、ふと耳をすましていたが、静かにたばこ二ふく程くゆらせて、やがて前にある介三郎へいいつけた。
「この一巻と、三、四通の文章とを、帛紗につつみ、しかと、そちが肌身につけて持っておれ。――そして予が、羽衣を舞うて、舞い終る頃、午の中食の休みとなろう。それまで、楽屋の鏡の間の袖部屋か――うしろの用部屋において、ひかえておれ。どこへも、決して、起たぬように」
「心得ましてございまする」