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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
二十一
――汝の眼は、主君を見るに、なべて世にうとく、甘言によくうごき、下情には暗く、人の肺腑を視るにはその明なきものと、一様に心得おるらしい。――それがそちの敏才と悪能をして、飽くまで大胆にさせた根柢のものであろうが」
と、睨めすえた。
しかし紋太夫は、耳も貸さぬ勢いで、すぐ抗弁をつづけた。
「何とて、ご隠居さまをば、凡眼などと見奉り横着を仕りましょうや。幼年よりお側に仕えたれよりは」
「多言は無用」
と、一圧して、
「とまれその方が、わが寛仁に甘え、すこしも改悛の色なく、将軍の寵に驕るさる人物とこころを協せ、二奸一体となって、不逞な謀みをつづけ参ったことはいいのがれあるまいが」
「な、なにを、証拠」
「さこそ――」と、苦笑をゆがめ、
「おおかた、証拠よばわりなど為しつらめと、それはここに握って申すことじゃ。まず、この箇条箇条の罪状について、遂一言い開きあるか」
と、ふくさを膝に解き、さきに認めておいた十数箇条をつきつけて詰問した。
紋太夫はそれを、板敷のうえに展げ、両手をついたまま読み下していたが、そのうちに、恐れ入るかと思いのほか、傲然、胸を正して弁舌をふるい出した。