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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
ここ生涯のわかれ目と、懸命なせいもあろうが、由来、機智縦横な彼ではあり、満身の智恵をしぼって、自己の正当を述べ、自己の罪条をいい晦すに努めると、正に、懸河の弁舌というもおろか、思わず聞き恍れるばかりだった。
「待て」
黙って、数箇条の言い開きを聞いていたが、光圀は、途中で制して、
「さらば、これは何か」
と、連判の一巻を、かれの前においた。
「繰り展べて見い」
促されたが、紋太夫は、さすがに面色を失ってしまった。
強いて、真っ直ぐに、張っていた胸も、いたずらに胴ぶるいを示すだけであった。
光圀は、ひややかに、
「一見にも及ぶまい。その方としては内容の、一行一行、諳んじているほどの物。――そちがやしきの炉の上に懸けつるしあった物。……紋太夫、そちの弁舌も、はや無用と、覚ったであろう」
「……いえ! いえっ」
襟すじからさっと面上いっぱい蒼白の気を漂わせながら、かれは強く首を横に振り出した。
その動作とともに、急に、眦がつりあがった。鼻腔で呼吸しはじめた。そしてうわ言のように、
「ぞんじませぬ! お、おそれながら、御意、またこのような品、いっこう何のことやら覚えも……」