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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

一年じゅう薬を刻んでいるのである。お女中でも台所人でも老臣でも若い者でも、手があいている折は、任意にそこへはいって、薬草を刻む。

掟ではない。たった一度、老公からそういわれただけである。ところが、この薬研の薬きざみは、なかなかおもしろいものらしい。

「てまえにも、やらせていただきたいもので」

台所の庖丁人まで、ひまができると、ぬれ手をふいてやりに来る。

ある時、老公もここにあらわれて、居あわせた人々へ、

「みなよくやるのう。いったい何がおもしろくて精が出るか」

と、たずねてみたところ、その答えが、各※(二の字点、1-2-22)の年齢や職によってまちまちだったので、興がられたことがある。

まず、お書物方の鹿野文八がいうには。

「他念なく、薬きざみをしておりますと、思索がまとまって、日ごろ書物のうえで、疑念をいだいていたことも、書物から離れきったこんなあいだに、ふと、ははあ……そうだったのかと、ひとりでに解けて来たりなどいたします。ですから、薬研もまた、尊い辞書だといえましょうか」

その次に、お徒士の太田九蔵がいう。

「この頃、渡辺悦之進どのについて、すこし槍術の稽古をしていただいています。