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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

と、黒々書いてある筆蹟はたしかに又四郎の書風にちがいありません。そのあとへまた附句のように、

梅のたね

どこへ飛んでも

梅が咲く

と、これはまぎれもなく江橋林助の筆ぐせ。――察するところ、何故か、ふたりして心を協せ、ご当所を逐電いたしたらしく考えられますので」

すると、座中の二、三が、

「やったな!」

当然な思いあたりでもあるように、舌を鳴らしてつぶやいた。

そのほかの者とてもみな、みだりに疑う者はいなかった。老公をめぐる若い者の心と心の結びには、ひとりの行為を、一方では解せないというような不統一なものではなかった。

もちろん老公には分りすぎるほど解っていた。若い者と若い者の結晶は、火山岩の累積に似ている。鬱蒼につつまれて一体の静かな山を成していても、その胎には火を抱いて天地に怒りやすい性情をそなえている。

もし短いあいだの無事ばかり祈って、その怒りをやたらに抑えてゆくと、土壌は去勢されて、万物を生々と繁茂させる力を失う。

また悪くすると、その情熱が、刹那主義の求欲へ走ったり、みずから惑溺を求めて、みずから逸楽に亡ぼうと急いで行ったり、とかく若さと熱と夢のやりばに限りもなく蝕まれる。