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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

それも老公から、あまり激越はやめいと叱られて、歌わないことになったが、何かにつけ、幕府へ気がねをつかうらしい老公が、彼らは歯がゆくてならなかった。

はからずも今、琴にあわせて、宮のお歌を耳にし、また、老公の自作をあわせて聞いたので、多感なうえに、酒気を沈めている彼等は、泣き虫であると泣き虫でないにかかわらず、頭をふかく垂れたまま、ひとりとして、それをにわかに上げる者はなかった。

琴の音はやんだ。

老公はふすまのほうを見、

「いまのは雪乃か」

と、声をかけた。

ふすまを隔てたまま、遠く。

「みな様のご酒興を、少しはお添えできるかとぞんじまして……。おゆるしを待たずにむすめの蕗に申しつけました。おゆるしくださいませ」

「ほ……弾いたのは、蕗か」

「はい。歌は、年がいものう、ばばが自ら歌いました」

「雪乃。いつも健勝でよいの。むかしながら気のつくことではある。よういたした」

老公は、ふすま越しにいってから、若ざむらい一同へ、

「どうじゃな、そこのふすまを除いてもよかろうか。わしが皆のように若かった頃の知り人じゃが」

と、遠慮しながら訊いた。

花と花

一

もちろん誰にも異存のあろうはずはない。