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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
そのことにつき、何かご隠居さまのお智慧なりお力でも拝借したい考えでいたのではないかと察しられますが」
「む。おととい、城下へ出た折、そのようなうわさを、わしもちらりと小耳にはさんだが、べつに急いだことでもなかろうと考えて帰したがの……」
「それが実はひどくさし迫っている事らしゅうございます」
「聞いてやればよかったの」
「いずれまた、日をあらためてお願いに参りましょう」
ふと、老公のひとみに、気がかりらしいものが浮いた。
おととい城下の菓子屋のあるじが、お蕗のことをいろいろうわさしていたが、あのことばのなかに、なにか思いあたるものがあるらしかった。
そのまに、酒や膳は引かれて、若ざむらいたちのまえには、一個ずつのまんじゅうが配られていた。
まんじゅうは、紙につつんで、持帰ろうとするもあり、その場で喰べているものもある。
老公は、茶をのみながら、まんじゅうを割っていた。
座談は、茶となってからのほうが、まじめに弾んで、夜は更けるばかりだったが、たれもまだ帰ろうといい出すものはなかった。
そこへ、思わぬ出来事が起った。あわただしい声は、山荘の門をたたいて、ここの平和と陶酔を愕かせた。