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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
幾ぶんかれの武士精神を疑っているらしい口吻もある。
これだけで終っていたら、あるいはかれらのごう腹虫も、いつとなく解消されていたかもしれないが、その事あってから約七日ほど後、ここの人々がつねの如く孜々として汗と泥にまみれていると、すぐそばの街道を、昼酒に酔って、ふざけながら通りかけた三人の浪人者が、
「……あれだよ」
「あれか。……ふうむ」
「なんだい、侍のくせに、鍬をもってるなあ」
「水戸の百姓侍だそうだ」
「水戸か。なるほど」
何がなるほどなのか、顎をしゃくったり、眼まぜをしたり、鼻で笑ったりして、小楊枝のさきで歯をせせりながら見物していたが、そのうちに、げたげた笑い出した。
ふと、為がふりむいて、まっ先に眼にかどをたてた。
「あっ、あいつだ」
ほかの連中もひとしく、
「畜生。なんていけずうずうしいんだろう。勘太を斬ったのも、小屋荒しをしやがったのも、あの浪人者だ、いやあいつらが、みんなしてやったにちげえねえ」
みな後方を向いて、挑戦を示した。石権も、金槌をさげて、すわといえば、職人の先に立ちそうな構えをしていた。
いや、もっと物すごい血相を一瞬見せたのは、ついきのうから、まだ傷口の治療も十分でないのに、むりに働きに出ていた勘太だった。