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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

十歩ほど離れていたので、悦之進と林助は、老公のそばへ、大股に寄って行った。

老公は、左右の町屋を見まわしながら、

「わしが在城中と、綱条の代になってからと、城下の繁昌は、どう見えるな、さびれたか、盛んになって来たか……?」

「おそれながら、較べものになりません、何といっても領民は、大柱とたのむお方のご退隠に、気力を落しておるように見られます」

「では、さびれた方か」

「陰気になりました。以前と変りなく町々はうごいて見えますが、庶民のすがたに何か元気がないようで」

「なぜじゃろう」

「むずかしい儀で、われわれ若輩などには、お答えする知識をもちませぬ」

「ウム、む」

無理もないというように老公はうなずいた。

すると本町の辻で、はたと、目のさめるような美しい娘に出会った。白粉気はないが、凛として、しかも嫋かで、文筥を胸に抱いている姿のどこかに初々しさもあって、気品のある武家娘だった。

「……?」

老公ですら、ちょっと目をみはったほどである。なぜなら、ゆくりなくも彼は、二十四、五歳の頃の恋人の貌かたちを、そのままその娘に見て、

――似ている。

と、ふと思い出したからであった。