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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

墨のような夜である。

湊川の水音だけが枯れ草をそよがせてくる。小ぬか星が寒々と白い。そして、面を打つものは、風でもなく、寒さでもなかった、何ともいえない血のにおいである。

「……ううむう。ううむ」

うめいている者、うごかない者、かさこそと、血まみれのまま、這い出してゆこうとする者など――ずっと見まわしても二十人のうえはある。

「権三。おるか」

「へい」

「勘太、どうした」

「どうもしません」

「みんな来い」

介三郎は呼びあつめ、

「怪我人や、気を失っているものを、ひとまず小屋へみな運びこめ」

「へい」

「むしろや、ふとんや、何でもあつめて、寒くないようにしてやれ。――それから勘太、おまえが怪我をした時かかった医者を急いで呼んで来い」

「へい」

「それから為」

「へい」

「おまえは寺へ行って、ぼろきれや焼酎など、応急の手当てをする物やら、もっと寝具など、たくさん借りて来い。ひとりでは持ちきれまい三、四人つれて」

四

為も勘太ももどって来ないうちに、広厳寺の僧たちが、提灯をたずさえて、駈けつけて来た。

「たいへんな事になりましたものですなあ……」

凄愴な光景を見て、僧たちは歯の根をふるわせていた。