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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
それがしのいささか上手は、尺八だけでござるよ」
と、笑い消し、
「どうです、まだだいぶ残っていますぞ」
と、酒徳利をまわした。
焚火と酒と、たれの顔もみな赤い。けれど、酔うほどに、かれらは、きょうまで覚えたことのない情熱に沸りたてられていた。――真人間にかえりたいという欲望であった。
「ゆかしいご謙遜、いよいよ敬服しました。貴殿のようなお方こそ、真に強くてやさしい武夫というものかと、しみじみ、わが身が顧みられます」
と、浮田甚兵衛が代って、心からあたまをさげた。そしていうには、
「身の恥はもうつつめど及ばずですから、あからさまに恥ずかしいお訊ねをいたすが、それほどな貴方、また水戸の老公ほどなお方が、碑をたて、世に顕そうとまで、崇拝しておられる楠木正成とは、いったい、どれほど偉かった人物でしょうか。――この後はわれわれも心して、せめてその人の伝記なりと知ろうとぞんずるが……」
「いや、そこへ気づかれたら、ぜひ深くお学びあるがよい。何をつつもう。先頃、各※(二の字点、1-2-22)の狼藉にたいして、自分は一たんは、憤怒に燃え、みなごろしにもせんとまで思いましたが、いや待て、ばくちに日を暮すあぶれ者とても、そのあぶれ者に飼われている浪人とても、まことに畏れ多けれど、わが大君の民くさでない者はない。