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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
――が、その重秀もそのなかまとみえ、決して眉などはひそめない。むしろ笑いたくない場合も努めて笑って、
「さすがのてまえも、今日の善尽し美尽したご馳走には、もう……また口ぐせ……いや十分にいただいて、これ以上は入りません。そろそろ、おいとまを」
「待て、酒はすすめぬ。湯漬なとどうじゃ」
「ありがとう存じますが、明るいうちから、まだ別間に、たれかご来客のようですから」
「……む、む、数寄屋の客か。……あれはまだ待たせておいても大事ない」
「どなた様ですか」
「水戸の……ほれ、あれじゃ」
「藤井紋太夫とやらで」
「されば」
「非常な才人だそうでございますな。よくうわさを聞きますが」
「さようか」
「失礼でございますが、水戸家における柳沢侯じゃという評をなす者などございます。おそらくあなた様につぐ才人であろうと……」
重秀はここまで調子にのっていいかけたが、かれの顔を見て急に口をつぐんでしまった。
自分と似ているような存在――対比されるような才腕の持ち主を――たれも好かないのはひとの通有性であることに、ふと気がついたからだった。
「ふム……そうかな」
吉保の返辞は果たして白々しい。