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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

重秀は、勘定奉行の当路者として、

(これは、貨幣が足らないからである。質よりは数の問題だ。寛永このかた、文物の進歩や社会の推移は著しい。にも関わらず、貨幣はそのままになっている。――当然、改鋳して、質を更え、数をふやして、流通を活溌にしなければならん)

こういう経済観の下に、断行されたものであった。

純良な金質に、銀や銅を混ぜ、銀貨には錫や銅を加えて、新貨幣が発行された。

分りきっていた結果は、そのあとで、当然にあらわれた。物価の狂騰と、庶民生活の困難である。

(これは柳沢どのと、荻原近江守とが、改鋳のあいだを掠めて、私利を獲んためにした策である。それにちがいないのだ)

とまで、諸人の怨嗟は露骨であったが、赫々たる時運に乗った寵臣の耳には、聞えもせず、聞えても、おそらく何の反省もなかったであろう。

それは後のことだが、下地の相談は、すでにこの頃からあったかも知れない。――吉保は、重秀が立ち帰ると、

「ああ、ちと酔うた」

と、ものうげに、両手をうしろへ落し、大廂の外に、わが世の春を飾るがごとくある星を仰いで、大きく酔後の息を吐いた。

「殿。……昼からのお客つづき、おつかれでございましょうが、なおおひとり数寄屋のほうで、久しくお待ちでございますが」