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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「…………」

吉保は、斬りこまれたかたちである。が、大きく抛り出して、いわせているという体にも見える。しばし黙っていたが、突然、歯で噛み刻むようにくつくつと笑い出した。

「……惜しい男だ。紋太夫、そちが水戸家の老臣でなかったら、いまでも、もっと要職へ登用してやれたろうに」

「おことばですが、てまえにも望みがあります。あなた様のお望みを小さくしたようなものが。……それを知るものは、あなた様よりないはずです。また、あなた様の遠大なお胸の底もおそらく、紋太夫しかまだ知りますまい」

「油断のならぬやつ。もういうな」

「いいますまい。――が一言、お諫めしておきたいのは、大事をお急ぎあってはいけません。まず紀伊どのを、お世嗣に立てられ、その次代の将軍家に、吉里君をお立てあそばすぐらいなお気長さで徐々、お計りなさいませ」

「……。シイ」

吉保は、手をもって、彼の口を制しながら、脇息から身をねじまげた。

庭面の木々へ明りが青くさしている。ほかは、墨のように暗かった。白く揺れているのは卯の花らしい。

三

ふすま越しに次の間から小姓の声がしている。遠慮を命じられているので無断に開けないのであった。