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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
何不自由ない身分にありながら」
「いや、あの方には、そういうご思慮はとんとありません。何を仰っしゃるにも、大義と国体です。権現さまの幾多のお子お孫たちのうちにも、たったひと方、とんでもない変り種をおのこしになった――と申すしかございません」
「何しても物騒な人物。この上とも要心に如くはない」
吉保はそろそろ寝所を思うて、杉山検校の療治の手に、安々と身を横たえたくなって来たらしい。眠たげなつかれを顔色に漂わせた。そして急に、
「時に。……紋太夫」
と、話題をとばした。
「いい忘れていたが、昨年、そちの手から贈ってくれた献上の名花は、においといい、色といい、稀な名花には違いないが、ただひとつ、困った癖がある。あれには、ほとほと困じておるが」
「名花? ……。あ、あの、てまえよりさしあげた女子、お蕗のことを仰せられますので」
「そうじゃ。当館へ将軍家のお成りを仰ぐたび、歌舞にお給仕に、何かのお目なぐさみにもと、年来、眉目麗わしいものは召抱えて来たが、さてさて天下にすくないのは美人であった。わけて将軍家には、大奥の花にも見飽いてもおられようし、その眼にかなう程なとなると、容易ではない。