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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

「林助さんでも、ただの小者や中間ではありませんでした。あなただって」

「女の眼は怖い。そこまで読めていたか。ではいう、わしは水戸のものだよ」

「黄門さまのご家来でいらっしゃいましょう」

「そうだ。――わしのことを、ひとは皆、棒だという。棒の又四郎と綽名している。無口、鈍重、たれもそれが性根と思っているらしい。ところが、何ぞ知らん、わしはわし自身の激し易さ、泣き虫、多血な性分をもてあましている。……どうかして何事にも、胸をなでていよう、眼を閉じていよう、逸るまいと、自戒に自戒して、棒の如く、身の癖をつけているのだったが……ついに駄目だった。おれは江戸へ来た」

「…………」

「分るまい、こんなはなし」

「いいえ、分ります」

「分ればそなたは、おれが観ぬいていたとおりの女子だ。更にもう少し深く分って欲しい。江戸に来てからのわしは、わしの信念を強めるばかりとなった。悪政の下の奢侈遊惰、無自覚、いったいこれは何たる世間だ。――いや難しかろう、女子にはむりなはなし。ただこういおう、林助とわしとは、ともに血をすすって、この世を浄めようという大願をもっている者だと。――浄めるとは、どうするか、それは」