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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

やっと帰ると、住持はやれやれといわぬばかりな面持で、

「紀州の本山にいた頃の友だちなので、いやな顔もできぬが、ひとの顔さえ見れば無心、浪人しても心までああ落魄れてはさむらいの仕舞いじゃなあ」

と、聞えよがしに喞った。

だから納所にいるお小僧までが――もっとも小寺なのでほかに住僧はないが――びたびたという尻切れ草履が寺内に聞えてくると、

「来たよ、またあの薄あばたが」

と、小ばかにした。

編笠をぬいでも、そのさむらいの顔は、あまり立派でないらしい。年の暮にもやって来た。

「歳暮をもらいに来たのだろう」

お小僧と寺男は、落葉を焚きながらささやいた。帰るすがたを見るとこの寒さを袴一枚、裾のほころびも、見るからに見すぼらしい。

「いいあんばいに、この頃、ちっとも来ないね」

住持の身になって、うわさしていた。それがもう、年をこえて、梅のつぼみのやや白くなりかけている二月だった。

元禄八年である。

「いけないよ、うわさなどするもんだから、とうとう来たよ」

寺男が、厨の口をのぞいていった。飯炊だのお小僧は、

「どれどれどこに」

久しく見ないと、なつかしくもあるのか、首を出して覗き合っていた。