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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
かの女の想定の下に又四郎は根よくその辺を捜し歩いた。けれどそこには、小屋らしいものもない。ただ釣瓶を上げた枡形の石井戸に桟蓋がしてあって、美男葛のつるのからんでいるのが妙に心をひく。
なぜといえば、この風雅な井戸のうしろに、一本の六尺棒がおき忘れてあるのを見出したからである。それは、美男葛の巻いている井戸屋根の柱に立てかけてあった。
又四郎は手に取って扱いてみたりした。さっき物陰に潜んでいる間に通った庭番の持物などであろうが、
「……それにしても、こんなところに?」
と、不審を禁じ得ない。
――なにげなく。
かれは六尺棒の先で、井戸のそばの地上を二つ三つコツコツと突いていた。心のうちの焦躁が突かせたのである。
すると、驚くべきことには、それに対して井戸の中から答えがあった。井戸の底から確かに聞えたのである。
「おういっ」
と、呼ぶ声が。
又四郎は、棒を投げ捨て――恟っとわが耳を疑って立ち竦んでいた。――するとまた、
「おういっ、番人っ」
と、あきらかにいう。
井戸蓋をあげて、もう一度、耳を傾けた。――その影が、下からは見えるのではあるまいか。
「番人、釣瓶を下げてくれ。