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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
慚愧にうたれて、詫び入ることばも見つからなかった。
「…………」
かれはやがてさんさんと流涕していた。悔いの涙を見せてしまうと、かれはようやく自分をとり囲んでいたあらゆる防塞から自らのがれたような気がした。むしろ救われたようにほっとして流れる涙をかくさなかった。
涙はおろか、洟をたらしていた時代も、幼少、寝小便の癖があったことまで、この老公には自分の生い立ちの何もかもよく知り抜かれているのである。――何を苦しんで今日まで、さかしらな顔してこの偉いなる大人にたてを突いて来ただろうか。
「……おっ……お……おゆるしください。紋太夫、いまさらの如く、夢のさめたここちにございまする」
かれは我ともなく咽び出していた。――我となく――むしろそれがかれの、真実にちがいない。
つかえている両手のうえに、がばと、面を伏せて、
「小人……小人の浅慮さ。……仰せのように、いつしか、思いあがっておりました。……その紋太夫の心に乗じて、おそらく魔などが憑したものにござりましょう。こよいを限りに、きっともとの紋太夫に立ち帰りまする。その証には」
つと、かれは胸をあげた。やにわに後へ退がったと思うと、障子へ向って、ご免といいさま、胸元をひろげかけた。