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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

介三郎も。――また介三郎から、かねて勘太の身の上を聞いていた人々は、ひとしく勘太の心根に眼の熱くなるここちがした。

かれにとって、一個のまんじゅうは、いま最大な希望にちがいない。人間の段階を、諸人とともに踏み上って行こうとする最初の自信と、よろこびとを、かれはまんじゅうの味から身に訓えて行こうと望むのであろう。

(うまい菓子が食べたければ人なみになって来い。わしの店で売る菓子は、おまえ方のような怠惰な者に食わせるため製っている菓子ではない。人なみの働きもせず、人なみの物を食べて、しかも悪さばかりしてこの世を送ろうなどとは、それがほんとの非人根性。口惜しかったら、わしの家の菓子を、威張って食べられるようになって、出直しておいで)

おととし、菓子舗の主に、その店さきでいわれたことばを、勘太は、真人間に立ちかえる護符として来た。今日まで、一心、それを一つの目標として来たものだった。

「介三郎」

「はっ……」

「勘太へ、まんじゅうを取ってつかわせ」

「ありがとう存じまする」

介三郎はわが事のように礼をのべた。そして自分の懐紙をひろげ一個のまんじゅうを取り頒けて、