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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

……嘘とはなんだ」

「わるいか。こういったのが」

「嘘も、ただの嘘はまだ流しも出来ようが、情熱を虚偽した者といわれては黙しておれぬ。――では訊くが、江戸で会った折、そういったおれを止めたのは誰だ。諫めたのは何者だ。――貴公自身ではないか。わすれたか」

「…………」

介三郎は駁すことばに窮して口を閉じてしまう。そして、ここでまた、無言と無言の前にもどる。

否か応か。介三郎が求めるものに対して、又四郎がどうしてもうんといわないのだった。そのあいだの論争はもう尽きての挙句らしい。

介三郎が、これへ坐るなり、胸のそこを割って、かれに求めたのは、要するに、

(もう事態は最悪だ。われわれ側臣の隠忍にも限度がある。貴公がつねにさけぶ一剣掃奸を決行するときは来た。おそらく君もそのときを待っていたのだろう。又四郎、ともに死のう。西山の側臣中でも、老人はのぞいて、壮者六、七名は参加できる。藩中の若ざむらいからも二、三十名は馳せ参じよう。貴公を加えて、ざっと三十名、それだけが一束になって死ねば、紋太夫以下の奸党、目ぼしい者は、誅殺できる。――日、時を期して、江戸表と国元のふた手にわかれて同時にそれを断行するのだ)