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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

もう一ぺん、誠意をこめて、おれは貴公を思い止まらせに追って来たのだ」

「無益だ。拙者のかたい……」

「ほかならぬ佐々介三郎の思い極めたこと、おれの諫めなどは、むだとは思うが、可惜、犬死する愚を、見ているに忍びぬ。――しかも貴公だけならよいが、老公の側近から家中の正義の士がことごとく全滅の憂目を見るに知れきっているものを――晏如として、見ているのは信義ではない」

「おぬしにも信義はあるのか」

「何とでもいまはいえ。いわばおれは敗軍の将、甘んじて唾を浴びよう。――けれど敗軍の将でなければわからない心境もあるぞ。いかに貴公が、日頃の温厚と隠忍をやぶり、いまはと、火の玉になって打つかっても、勝てないものには勝てない。やはり敗れるのみだ。――敗れた結果はどうなるか。――それを思えばこそ、おれは空井戸の闇から生き恥を世にさらしながらも、唖の如く、木偶の如く、腹も切らず、ただ生きている。……この辛さ。わからぬか。貴公がおれの友だというならば」

「その態度は、きのうまで、われわれがじっと取って来たものだ。貴様がいまになって、そんな事をいい出すのは、口実としかうけ取れん」

「まだ早い。