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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

みなもおぼえておけよ。両名は勘当した者であるぞ」

いつにない立腹らしい。語気でもわかるほどであった。――が、十歩もゆくとすぐ常の老公にかえって、

「さあ、飲み直そうな。用でもない事のために、せっかくの酒をさました。隠居もこよいは夜もすがら参るぞ」

と、若い者たちのきげんをとった。

もとより身は黄門の高貴にあるし、剛愎な性情なので、ひとに屈したり諂らうことなど知りそうもないが、若い者たちの心をよく酌んで、稀に、自分のほうからきげんをとったり聞き難いことも黙って聞いてやったりするところもある老公だった。

「……や。駕がまいりますな」

山荘の門の内へもどりかけた時である。ひとりがうしろを見ていった。

「なるほど、駕の灯が三つ。……だいぶこれへ急いでくる」

「誰だろうか」

「まだ誰か、不参のものがあったろうか」

人々が、夜風に戦いでくる遠い灯の近づくのを待ち顔に佇んでいると、さきに門内へはいった老公が笑っていった。

「あれはわしの呼んだ客じゃ。汁講は男ばかりと限ってもおるまい。女のなきは、梅の月のないようなもの。面々が余りに虎になって荒れぬよう呼んだ女子じゃ。……しかしその女子がひとりのはずだが、あとは誰かな?」