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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

――白石の後家、雪乃とおつたえ下さればわかりましょう。よろしゅうお取りつぎを……」

と、小腰をかがめている老女は、美人といわずに何といおう。髪も白い、からだも細い、柳腰もやや曲がってはいる。――けれどその楚々たるすがたは、梅は老いてもなお梅であるように女らしいひとであった。

「承っておりました。老公にもおまちかねです。さあ、こちらへ」

案内に立とうとすると、こよいの紹介役について来た牧野惣左衛門が、

「こちらは、ご息女のお蕗どのです。……その由もあわせて、ご前へ」

と、口を添えた。

お蕗は、母のかげに、寄りそうたまま、黙って礼儀をしただけであった。

悦之進は、なぜか、

「はあ」

とのみで、それには強いて眼をそらしてゆく。案内して玄関から控えに通し、取次にゆくまで、何となくそわそわしていた。

「おや、老公には?」

大勢のいる元の部屋へはいってゆくと、悦之進はまごついた。まるでさっきの様子とは座の景観がちがっているからである。

各のまえに行儀よくならべた配膳も、思い思いなところへ運び、大きな鍋のかかっている炉を中心にかたまり合っているのだった。

「悦之進か。ここじゃ、わしもここにおるよ」