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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
そして雪乃は、臣下の家に嫁した。かりそめにも、ひと妻である。いまは良人も亡い後家にしてもである。
――人なかこそよけれ。
老公の思慮はわかる。あくまで、ふたりのものを、きれいに持ち終りたいのが望みにちがいなかった。
「かしこまりました」
惣左は、いちど答えてから、
「こよい来いとの仰せは、おそらくその辺の思し召もあろうと、雪乃どのにも、篤とお察しのようでございました。ただ今もむなしくお次にひかえているより、何がなお手伝いでもしようかと、私へお諮りなさいましたから、では、お琴でも蔭から聞え上げてはと、私よりおすすめ申しあげたのでございました」
「そうか。……ムム」
さすがに老公のきげんもいと麗しい。
若ざむらい達は、とりちらした膳や杯をもって、各※(二の字点、1-2-22)、最初に着席したところへもどった。
自分たちがまだ生れない前のはなしである。――老公と雪乃の恋は。その頃、かくれもない問題だったと聞いているふたりの浮名は。
「…………」
青年たちは、どう見るか、粛然と、この古恋の再会に立会っていた。
席がひらかれると、惣左は、次の間のさかいへ寄りそい、ふすま腰へひたと坐った。