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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(五)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。

N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 頁

青空文庫

と呟いて、みな怖れふるえた。

そして、人々みな、

「はやく、百姓どもの群を捨て先へお急ぎなさらねば、御身の危急」

と、口を揃えてすすめたが、玄徳は耳にも入れず、

「――前の山は?」と、左右に訊いた。

「前なるは、当陽県の水、うしろなる山は景山といいます」

ひとりが答えると、さらばそこまでいそげと、婦女老幼の群れには趙雲を守りにつけ、殿軍には張飛をそなえて、さらに落ちのびて行った。

秋の末――野は撩乱の花と丈長き草におおわれていた。日もすでに暮れかけると、大陸の冷気は星を研き人の骨に沁みてくる。啾々として、夜は肌の毛穴を凍らすばかりの寒さと変る。

真夜中のころである。

ふいに、人の哭きさけぶ声が、曠野の闇をあまねく揺るがした。――と思うまに、闇の一角から、喊声枯葉を捲き、殺陣は地を駆って、

「玄徳を逃がすな」

と、耳を打ってきた。

あなや! とばかり玄徳は刎ね起きて、左右の兵を一手にまとめ、生命をすてて敵の包囲を突き破った。

「わが君、わが君。――はやく東へ」

と、教えながら、防ぎ戦っている者がある。見れば、後陣の張飛。

「たのむぞ」

あとを任せて、玄徳は逃げのびたが、やがて南のほう――長坂坡の畔りにいたると、ここに一陣の伏兵あって、