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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(五)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。

N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 頁

青空文庫

五

「なに、討ち損じたと……あの赤壁から潰走した敗残困憊の兵でありながら、なお羽将軍の強馬精兵をも近づけぬほど、曹操はよく戦ったと申さるるか」

「……でも、ござらぬが。……つい、取り逃がしました」

「然らば、曹操は討たずとも、その手下の大将や士卒は、どれほど討ち取られたか」

「ひとりも生捕りません」

「挙げたる首級は」

「一箇もなし――でごさる」

「ウーム。……そうか」

孔明は、口をつぐんで、あとはただその澄んだ眸をもって、彼をながめているだけだった。

「関羽どの」

「はい」

「さてはご辺には、むかし曹操よりうけた恩を思うて、故意に、曹操の危難を見のがされたな」

「今さら、何のことばもござりませぬ。ただご推量を仰ぐのほかは……」

「だまれっ」

孔明は、その白皙な面に紅を呈して、一喝、叱るやいな、座後の武士を顧みて、命じた。

「王法は、国家の典形。私情をもって、軍令を無視した関羽の罪はゆるされん。諸君っ! 斬り捨ていッ、この柔弱漢を!」

五

孔明がこれほど心から怒ったらしい容子を見たのは、玄徳も初めてであった。

めったに怒らない優しい人が怒ったのは、ふつうの者の間でも恐ろしい気がするものである。