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さんごくし
三国志(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(五)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。
N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 頁
二
「呉を討った後には、まだもう一方に片づけなければならんちんぴらがおる。玄徳、孔明の鼠輩だ。いや、この大陸大江に拠って生ける者としては、彼らの存在など鼠輩というもおろか、目高のようなものでしかあるまい。いわんやこの曹操の相手としては」
酒に咽んで、彼は手の杯を下におき、そのまましばし口をつぐんだ。
皎々の月も更け、夜気はきわだって冷々としてきた。いかに意気のみはなお青年であっても、身にこたえる寒気や、咳には、彼も自己の人間たることをかえりみずにはおられなかったのであろう。ふと声を落して、しみじみと語った。
「予もことしは五十四歳になる。連年戦陣、連年制覇。わが魏もいつか尨大になったが、この身もいつか五十四齢。髪にも時々霜を見る年になったよ。だが諸君、笑ってくれるな。呉に討入るときには、予にも一つの楽しみがある。それはそのむかし予と交わりのあった喬公の二娘を見ることだ」
こんな述懐を他人にもらしたことは珍しい。こよいの彼はよほどどうかしていたものと思われる。すっかり興にひたって心もくつろぎ、また彼自身の感傷を彼自身の詩情で霧のような酔心につつんで思わず出たことばでもあろう。