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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(五)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。

N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 頁

青空文庫

そして依然、大波天にみなぎり、乱雲のあいだからほのかな月光さえさして、一瞬は晃々と冴え、一瞬は青白い晦冥となり、悽愴の気、刻々とみちていた。

三江の水天、夜いよいよ深く

万条の銀蛇、躍るが如し

戦鼓鳴を止めて、舷々歌う

幾万の夢魂、水寨にむすぶ

魏の北岸の陣中で、誰か吟詠している者があった。旗艦に坐乗していた曹操はふと耳にとめて、

「誰だ、歌っているのは」とかたわらの程にたずねた。

「艦尾に番している哨兵です。丞相が詩人でいらっしゃるので、おのずから部下の端にいたるまで、詩情を抱くものとみえます」

「ははは。詩はまずいが、その心根はやさしい。その哨兵をこれへ呼んでこい。一杯の酒を褒美にくれてやろう」

旗下の一人が、すぐ席を起って、艦尾へ走りかけたが、それとほとんど同時に、

「――やっ? 船が見える。たくさんな船隊が、南のほうからのぼって来る!」

と、檣楼の上からどなった。

「なに、船隊が見える?」と、諸大将、旗本たちは、総立ちとなって、船櫓へ登るもあり、舳へ向って駈け出して行くものもあった。

――見れば、荒天の下、怒濤の中を続々と連なって来る船の帆が望まれる。月光はそれを照らして、鮮やかにするかと思えば、またたちまち、雲は月をおおうと、黒白もつかぬ闇としてしまう。