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さんごくし

三国志(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(五)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。

N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 325,249 字 · 653 頁

青空文庫

刻々と迫るこういう危険な情勢の中を、玄徳と夫人の車は、なお逃げ落ちられる所まではと、ただ一念一道をひた奔りに急いでいた。

いつか、柴桑の城市を横に見、その郊外を遠く迂回して、また道は江に沿ってきた。そして劉郎浦とよぶ一漁村までたどりついた。

「舟はないか」

「舟は? 舟は?」

玄徳も趙雲も、ここへ来てはたと、それに当惑した。

漁村らしいのに、どうしたのか船は一つも見当らない。のみならず、一方は渺々たる江水天に漲り、前は自然の湾口をなして、深く彼方の遠い山裾まで続き、いずれへ渡るにも、舟便に依らなければ、もうどっちへも進めない地形だった。

「趙雲。趙雲」

「はい。ご主君……」

「遂に虎口に落ちた。最後へ来たな」

「いや、まだご失望は早過ぎます。今、例の錦の嚢の最後の一つを開いてみました。すると。――劉郎浦頭蘆荻答エン、博浪激波シバシ追ウモ漂イ晦ムナカレ、破車汗馬ココニ業ヲ終エテ一舟ニ会セン……そんな文があらわれました。察するところ軍師孔明には、必ず何かよろしき遠謀があるにちがいありません。まずまず、あまりお案じなさいますな」

趙雲はなぐさめた。しかし玄徳は黙然と灰色の空や水を見まわして、車のうちの夫人にものもいえず、暗然とたたずんでいるだけだった。