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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页
と、止めた。
酒部屋から新たに温めた銚子が運ばれてくる。雪乃母娘は、
「では、不つつかなお酌などいたして」
と、各のほうへ、あいさつを兼ねて、銚子を持ってまわった。
お蕗も、母に倣って、つつましやかに、幾人かの杯へ酒をすすめて行ったが、かの女の向ける銚子にたいして、
「は。どうも」
と、杯を押しいただくもあり、なかには手のふるえていた若ざむらいもあった。
そのうち、
「駕がまいりました」
と、表から告げてくる。
雪乃母娘は手みやげに持って来た浙江まんじゅうを、剣持与平から老公へ披露ねがって、やがて惣左とともに、さきへ帰って行った。
帰るまぎわまで、かの女は老公に、もっと何やら打明けたいようなものを、胸にもっていたらしく見えた。
察しのはやい老公は、
「また参れよ」
と、いった。
――またの折に。それを恃みに、かの女は帰ったらしいが、母娘のものを門外まで送りに行った与平が、あとで老公のそばにもどると、そっと告げた。
「雪乃どのには、ちょっとでも、ご隠居さまとおふたりきりで、おはなし願いたいご容子に見えましたが」
「惣左も、そういうたか」
「はい。……何事かいま、ご息女のお蕗どのの身について、ひと方ならぬ心配事が起っておられるそうで……。