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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

六

「もし、お職人さん」

と、呼びかけてたずねた。

「――いったい、あれや何です。何があそこに建つんですえ」

為は、ぶっきら棒に、

「碑さ」

「碑はわかっているが、たれの碑で」

「うるせえなあ。ここを通るやつは、きっと訊きゃあがる。分らなければ分らねえでいいじゃねえか。建ったら、お詣りにおいで」

「でも、畠のなかへ、いきなり出来るものにしちゃあ、おそろしく、立派じゃございませんか。たれか、金持の地主でも、あそこに守護神を祀ろうとでもいうんで?」

「なにを、この野郎」

「……おや」

「なにが、おやだ」

「怒らなくってもいいじゃありませんか」

「怒らずにいられるか。いうにことをかいて、金持の守護神の碑かとはなんだ。やいっ」

「褒めたんだからいいじゃありませんか。すばらしい碑が建ちそうだから、それで」

「よしてくれ。こうみえても、おれたちのしている仕事は、そんなものたあものが違うんだ」

「へえ……。では、誰ので」

「謹んで聞けよ。楠木正成公の碑だ。見ろ、あの小屋にさえ、注連縄を張って、おれたちは、精進潔斎してやっているんだ」

「楠木? ……なんていうひとですって」

「正成公。正成公を、知らないのか」