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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

「朝日新聞」1941(昭和16)年2月18日~8月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 页

青空文庫

四

「あなた様とは、よい太刀打かな――といわれた大名があるそうですな」

「そうか」

「いまのところでは、たしかにあなた様のご勝利といえましょう」

「……紋太夫」と、吉保のあたまはべつの方へ向いていたらしく、

「――そうして、水戸どのが若い頃には、頭巾組などという影武者をおいて、諸国を微行の旅していたとあるが、一体、何を目的に歩いていたものであろう。まさかただの遊びや見物の廻国ではあるまい」

「もとよりです。ちと口外を憚りますが……」

「かまわぬ。邸内の深殿、ここには、ひともおらぬし」

「極秘ですが、備前の池田新太郎少将などと、密かに、お会いなされたこともあります。そのほか、有力な西藩の諸侯や、公卿堂上中のさる方々とも」

「何のために?」

「ご烱眼も届きませぬか。青年からご壮年になるまで、或いはいまも――光圀公のお胸にひそんでいることは――幕府の権、政一切をあげて、天朝へお還しさせ申さんという恐ろしいお望みにあるのです。これを知るものは、同藩の一部のほか、外部へおもらしいたすのは、いまが初めてでござりますが」

「でも、水戸は三家の一、また黄門光圀は、権現さまのお孫でないか。